13. 意識と脳
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1. 意識を科学的に研究するには
1910年代: 意識は客観的に観察できないので扱うべきではない
近年: あくまで科学的な研究方法は守りつつ意識を心理学で扱おうという気運
心理学の学術論文においてもconsciousnessやawarenessという用語が普通に使われるようになってきた
心理学が科学であろうとする以上、意識を何らかの行動に置き換えて客観的な測定をする必要がある 一方で、その測定されたものが本当に私達が意識と読んでいるものを適切に反映しているかを常にチェックすることも必要
そのチェックには主観的データも必要になるという難しい問題もある
科学的に意識を扱おうとうる他のアプローチ
意識は様々な精神機能の総体ともいえるので、意識の全体像を明らかにするために、意識につながる精神機能について一つひとつ解明していくという方略
プランニングについては前頭葉の機能と深く関わりがある(後述) その他
潜在的認知の事例を手がかりとして脳における「意識の座」を知るというアプローチ(後述)
脳活動のデータだけから何を見ているのか、何をしようとしているのかを読み取ろうという近年のアプローチ(後述)
2. 前頭葉の機能
いわば大脳皮質からの出力部位といえる
それ以外の多くの前頭葉部分は大脳皮質同士の連絡を行っている領域(連合野) 人間では他の動物に比べてこの前頭連合野の割合が大きく、全体の皮質の29%を占める 前頭連合野が最も活動できる時期は他の皮質領域に比べて相対的に短い
人間の胎児における前頭連合野の発達時期は他の皮質領域に比べて遅く、また誕生後も神経細胞の髄鞘化が完成するまでに時間がかかる 前頭葉を失ったことが行動変化の直接的原因とはむろん断言できないが、前頭葉にたとえば情動制御といった機能があることを示唆する事例 当時の薬では制御できないぐらいに暴れる患者に対し、頭蓋骨に穴をあけて先の鋭いヘラ(ロイコトーム)をそこから挿入し、前頭葉の白質(軸索の束の部分)を切断するという手術 それまで暴れていた患者がおとなしくなった
ただし手術を受けた患者の自発性が失われるという悪影響が生じたため、この手術は現在では行われない
意欲的な行動を前頭葉が可能にしていることを示唆する
前頭葉損傷患者でどのような行動に障害が見られるかを心理学実験で測定することにより、いくつかの前頭葉機能が明らかになっている
色・形・数がそれぞれ4種類あるカードを、ある規則に基づいて1枚ずつカードを分類する
検者から患者に対し、現在どの次元に基づいて分類せよ、といった教示はなされないが、1枚置くたびにその分類結果の正誤を検者がフィードバックする
最初の10枚程度は次元が変わらない
前頭葉損傷患者も健常者も順調に正解を続ける
予告なしに途中で正解次元が変えられる
健常者は適切にその新次元に適応した行動が取れるの
前頭葉損傷患者はいつまでも前の正解次元にとらわれた分類をするという固執傾向を示す
これは反応抑制の障害を反映したものと考えられている 目の前のテスト用紙に線画がいくつか縦横に並べて描かれており(ピアノ、カバン、バスなど)、患者がその線画を次々に指差していく
指差しの順番は患者自身が予め決めるが、テスト用紙ごとに線画の配置は変わっており、1つ目の線画を指差したらページをめくって2つ目を指すということを繰り返す
つまり位置で覚えることはできない
最初に決めたとおりの順番で線画を順次指差していけるか(プランニング機能)を調べる課題
線画数が6のもので行うが、以降8, 10, 12となっていく
この課題における前頭葉損傷患者の成績は健常者に比べて低い
カードの上下に一つずつ単語が書かれているものを次々に覚えていき、6~8枚ごとに記憶を問うカードが挿入されていて「この二つの単語のうちどちらの単語がより最近出てきたか」という時間の要素を含む再認課題
カードに書かれた単語をあとで再認するといった記憶課題においては前頭葉損傷患者はそれほど障害を示さない
記憶課題に時間の要素が含まれていると健常者に比べて成績が低くなる
この課題における成績が前頭葉損傷患者の場合に悪い
目の前で左右どちらの手がかり刺激が光ったあと消え、ある一定期間消えたままの状態があり、次に左右両方とも視覚刺激に光がついたときに、さっき光がついていた側のボタンを押すと報酬がもらえるという手続き
課題に成功するためには、刺激が消えたままになっている数秒の遅延時間だけその情報を短期的に記憶保持しておく必要がある
サルの前頭葉もしくは頭頂葉を冷却プローブにより20℃に下げて局所的に機能低下させたときのワーキングメモリー課題成績は、前頭葉を冷却したときにのみ成績が低下した 記憶を保持すべき遅延期間中に特異的に応答を示す神経細胞が見つかった さらに何を覚えているかによってその神経細胞の活動が生じたり生じなかったりする場合があることも示された
報酬の種類によってもその遅延期間中の神経活動に影響が及ぼされることが示された
https://gyazo.com/30174705449a483393dcef4b03a9d037
意識は短期的な記憶の連続と捉えることもできるので、意識メカニズムを完全に解明するにはワーキングメモリー機序の解明が必要条件となろう
なにかの「ふり」をすること、たとえば歯ブラシを持たずに歯磨きをするふりができない
多くの場合には日常生活や社会生活に制約が生じるため、そのリハビリテーションや生活支援の方法の検討と実践が続けられている
3. 潜在的認知を示す事例から意識の座を考える
神経心理学的アプローチによってある精神機能の座を明らかにする場合
意識の座があるとしたら、どのような患者の脳部位を調べることで同定可能か
患者が対象を意識的体験としては認知していないのに、その対象が適切な行動の手がかりになっているような現象
例えば左の視神経(視交叉よりも前の部分)が切断されると左眼からの入力がなくなるので、右眼の視野は正常で左眼の視野は欠損することになる また、右の第一次視覚皮質を損傷すると、右眼のうち耳側の網膜からの入力と左眼の鼻側の網膜からの入力を受け取れなくなるので、右眼の視野も左目の視野も左側の視野が欠損することになる 眼のレンズによって、網膜の右よりには視野の左側からの光が到達している
これらは盲視ではなくあくまで視野欠損であることに注意
視野が欠損している範囲内に何らかの視覚刺激を提示されても、その人は何がいつ提示されたのかを言うことができない
右半球の内側面や右の第一次視覚皮質を切除した人だったので、視野欠損はどちらの眼も左側
左視野の様々な箇所に短時間の光刺激を出してもD.B.は提示箇所がわからず、場所を指し示すことはできなかったが、ワイスクランツが当てずっぽうでいいからと促すと、D.B.は視覚刺激提示の合図(音刺激)に合わせて当てずっぽうに指し示した
指差した箇所を調べたところ、実際の光点の箇所から比較的近いところに指を向けていることがわかった
この欠損しているはずの視野に提示された刺激の位置を患者が当てることができるという(しかし患者の意識には上っていない)現象のことを盲視という 第一次視覚皮質が損傷しているということは、視覚経路が寸断されていることになるのに、なぜ刺激を(無意識とはいえ)情報処理できるのか 人間の視覚経路にはこの外側膝状体や第一次視覚野を介さない別ルートがあり、それは上丘と視床枕を経由する https://gyazo.com/c093ceb2a0de1010a609141fcb674d44
この視覚経路は第一次視覚皮質を介さずに脳の前部へと向かう
以上のことから、私達が目の前のものを見る際にそれが自分の意識にのぼるためには、第一次視覚皮質の活動が必要なのではないか、ということがわかる
この場合は(見るということについての)意識の座は第一次視覚野ということになる D.F.は形態型失認をを示した(目の前の対象の形がわからない)が、動きの動作のひとつとしてふるまった場合には比較的適切にその対象の形を手がかりとした行動ができたため、対象の向きや大きさに関わる情報は脳内で処理されていたことがわかった それが意識にのぼるのには外側後頭領域が必要だったことになる
4. ブレインマシンインターフェイス
もし意識と脳の関係が完全に解明できるときがきたならば、脳活動データをもとにその人の心を読むということも可能になっているだろう
脳活動データによって外部機器を動作させるブレインマシンインターフェイス研究は急速に発展しており、ある人の脳活動を周到に解析することによってその人の意図を第三者が判断したり、ある人の見ている世界を再現したりすることはある程度可能になった https://gyazo.com/953632731131255043e90a2d795fe3e1
まず、外界の視覚刺激と実験参加者の脳活動との対応を収集
様々なパターンの視覚刺激を次々に実験参加者に提示し、そのときの脳活動データを蓄積
その後、これまで見せなかった新たな視覚刺激を見せたときに、実験参加者の脳活動データだけからその視覚刺激が再現できるかどうかを試みた
実際に表示された画像にかなり近い画像が計算によって再構成されているのがわかる
産業技術総合研究所が開発した技術として、発声や身振りなどで自分の意思を伝えることができない患者の意図を脳波から読み取って介護に用いるという試みがある 超小型無線脳波時計を患者に装着し、ノートパソコンの画面に8つほどの選択肢アイコンを表示してそれらをランダムに光らせると、患者が意図しているカテゴリーを患者の脳波からリアルタイムに判定できる
それが同定できると、次に何処に移動したいかという意図を判定するための選択肢アイコン画面に変わり、同様の手続きによって患者の意図を脳波から判定する、ということを進めていく